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【ワダサカ論】vol.8
vol.8 中村直志さんと吉村圭司さん
今回は、私が2002~2003年の2年間、ベルデニック監督の下で通訳兼コーチとして仕事をした名古屋グランパスで指導した、印象に残っている2人の選手について書いていきます。
その選手というのは、中村直志さん(2001~2014在籍。元日本代表)・吉村 圭司さん(2002~2012在籍)の2人です。
中村さんは当時大卒2年目の選手で、1年目から試合メンバー入りしていました。トップ下でプレーし、ドリブル、ミドルシュートを武器とする攻撃面で力を発揮するタイプでした。
ベルデニック監督は彼を高く評価していましたが、同時に守備面や仕事量の少なさという点で改善が必要と考えていました。週初めのトレーニング前に、いつも直近のリーグ戦の振り返りミーティングをするのですが、特に気になる選手とは練習後に、1対1で話をすることがありました。
ベルデニック監督の場合、そのような時は活躍ぶりを絶賛するのではなく、修正点について話すことが多かったです。ある時、中村選手が呼ばれ、厳しい内容の話になりました。監督が厳しい話をするのは当然期待の表れなのですが、選手によっては気を悪くすることもあり、なかなか難しいものなのです。
しかし中村さんはその批判を受け入れ、そこから少しずつプレーが変わっていきました。翌年、プレーの幅を広げた中村選手は攻撃力を備えたボランチとしてチームに欠かせない存在となり、数年後にはオシムさんが監督を務めていた日本代表に呼ばれました。
吉村さんは私と同じタイミングで入団したボランチの選手でした。1年目はなかなかメンバーに入れず、サテライトリーグ(当時、公式戦出場の少ない若手選手に実戦機会を提供することを目的に実施されていた)でも出場機会が得られず、チーム事情で本職ではないリベロでプレーしていました。モチベーションが落ち、不満を言いたくなるような状況でも吉村選手は常に100%集中してプレーしていましたし、練習中も監督の話をよく聞いていました。
翌シーズン初の公式戦、ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)大分戦で(たしかスタメン選手の怪我が理由だったと思いますが)吉村さんが急遽スタメンで出場することになりました。その試合で自分の役割を完璧に果たし、先制ゴールまで叩き出しました。この試合をきっかけに一気にスタメンを掴みました。ベルデニック監督もその成長ぶりに驚いていました。
中村さんと吉村さんは共に名古屋で長年に渡って中心選手としてプレーし、2010年には名古屋に初のリーグタイトルをもたらしました。
彼ら2人に共通して言えることは、知性があり、監督の要求を理解し、日々の練習に全力で取り組んだということです。前回書いたガンバ大阪の丹羽大輝選手と同じですね。
プレーするポジションが自分の希望と違っても、そのポジションでの役割を理解し、プレーしたことで結果的に自分のプレーの幅が広がり、監督が変わっても試合に出続けることができました。
ベルデニック監督は「ヨーロッパでは誰よりも走ってボールを奪う選手がスター選手と呼ばれる」と言っていましたが、この2人はまさにベルデニック監督が言う「スター選手」でした。
私も監督という立場になってより実感しましたが、中村さんや吉村さんのような知性があり、チームのために走れる選手がいるとチームとしてのパフォーマンスが安定し、監督は落ち着いて試合に臨めます。ベルデニック監督にとって彼ら2人の成長は、本当に嬉しかったと思います。
「スター選手」というと「巧さ」や「強さ」にばかり目が行きがちですが、「誰よりも走れるスター選手」がいるということも、サッカー選手を目指す皆さんは参考にしてみてください。