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【ワダサカ論】Vol.特別編 ワダ’s EYE CL決勝~勝敗を左右したポイントとは~

Vol.特別編 ワダ’s EYE CL決勝~勝敗を左右したポイントとは~

ワダサカ論 ワダ’s EYE

日本時間8月24日(月)早朝、19/20シーズンUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦が行われました。ご存じの通り、ドイツのバイエルンミュンヘンがフランスのパリサンジェルマンを1-0で下し、7シーズンぶり6度目のヨーロッパ王者になりました。今回はこの決勝戦の勝敗を左右したポイントについて書いていきます。

 

 

まずは、形は異なりますが両チーム共に現代サッカーに不可欠な要素である『連携』、そして『ダイナミックさ』という点で非常に高いレベルにありました。

バイエルンはドイツのチームらしい規律、勤勉さ、1対1の強さ、アグレッシブさを持つと同時にゴール前でのコンビネーション、攻撃のバリエーションという面でも優れていました。

一方、パリサンジェルマン(以下PSG)はネイマール、ムバッペ、ディ・マリアといった選手の個人技、スピード、アイディアを最大限に生かす戦いを指向していました。

連携面を見るとバイエルンは全員攻撃、全員守備を90分貫き通すために、各自に与えられた役割を忠実にこなしていました。その上で、「個人の特徴を生かす」という姿勢がチーム全体にありました。攻守の切り替えの速さも素晴らしかったです。

PSGは前線3人(ネイマール、ムバッペ、ディ・マリア)の強力な個の力を生かすための他7人という形と言えますが、あれだけの個の力があれば当然ですし、前線3人の生かし方はチーム全体で共有できていたと思います。

両チームに言えることですが、「いかに得点するか」、「いかに相手の得点を防ぐか」という点における意識が高く、所属選手の質を考慮した上での戦術的準備ができていました。

バイエルンは、ボールを保持し、全員で相手陣内に入ってプレーをし、サイド攻撃を中心に相手ゴールに圧をかけ、ボールロストと同時に2~3人ですぐに奪い返すという戦い方、PSGは相手を自陣に引き込んで、高速カウンターを狙うという構図でした。ボール支配率は前半途中の時点でバイエルンが60%で、後半途中でも同じような数字でした。これだけ見るとバイエルンが優勢に見えますが、PSGにとってもある程度ボールを支配されるのはプラン通りだったと思いますし、前半の初めはPSGの方が得点に近かったと思います。

結果論ですが、PSGからすると前半で得点していれば初優勝を飾った可能性は高かったと思います。

初優勝へのプレッシャー、バイエルンのGKノイアーの存在感などもあったでしょう。トップオブトップの選手でもCL決勝という大きな舞台ではメンタル面が不安定になったり、少しでも自信が欠けると上手くプレーできないものです。もしかしたら初優勝への強い想いがマイナスに作用した可能性もあるでしょう。その意味で両チームのGKがチームに与える安心感、自信に差が出たのかもしれません。ビッグゲームであればあるほどGKのパフォーマンスが重要になります。

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特に印象に残ったシーンをいくつか書いていきます。

①44分:PSGがバイエルンのペナルティエリア内でのパスミスを得点に結びつけることができなかったシーン

前半の半ばくらいからバイエルンもチャンスを作り始め、前半の終盤はバイエルンが若干優勢だったと思います。少しずつ劣勢に立たされてきたPSGとしては、このシーンで得点に結びつけることができなかったのが非常に痛かったと思います。

ビッグチャンスを逃していると逆に失点するのがサッカーですし、実際この直後、バイエルンにPKを与えてもおかしくないシーンがありました。

 

②59分:バイエルン先制シーン

このシーンではバイエルンの選手がペナルティエリアに5人入っていました。チャンスだと感じ取った選手達の判断が素晴らしかったと思います。

サイド、ペナルティエリアの付近でボールを持ち、5人もゴール前に入っていけば誰かがフリーになる可能性が高くなります。

また今シーズン公式戦で50以上ものゴールを決めている絶好調のレバンドフスキがいることでPSGのディフェンスはどうしても彼の存在が気になり、周りのバイエルンの選手がフリーになりがちです(ゴールはコマンを一瞬目を離し、フリーにしてしまったことで生まれました)。

PSGのミスではなくバイエルンの選手が素晴らしい動きをした結果の得点といえるでしょう。

ここから監督によっては守備を厚くしてカウンターを狙う形に変えるのでしょうが、バイエルンは、ボールを保持して相手陣内で試合を進めることでPSGに得点チャンスを与えず、かつ決定的な2点目を取りに行くという戦い方を選択しました。

当然PSGの武器である高速カウンターを警戒して、「ボールロスト時に素早くプレスをかけ、自由にパスさせないこと」は終始徹底していました。

 

③79分:バイエルン中盤エリアでのファール

このシーンでは楔(くさび)を受けたネイマールに対してバイエルンのCBとボランチが2人で激しくプレスをかけました。結果としてはファールになりましたが、終盤でもPSGのキープレーヤーに対して自由を与えない守備を継続したことが勝敗に大きく影響したと思います。

素晴らしいのは中盤で受けた後ろ向きの選手には激しくアタックし、自陣ゴール前や前向きの選手に対応する時は慌てず、味方のサポートを待つ守備ができていたことです。

 

 

私が挙げた点や多くの解説者が挙げるポイントになったシーンを踏まえて、もう一度この試合を観ると試合の『流れ』や、『おもしろさ』を発見できると思います。また指導者を目指す学生は現代サッカーの特徴、試合中の重要なポイント、要素というものにも目を向けてほしいと思います。

 

 

CL決勝などのビッグゲームでは、細かいところが結果に影響することを改めて知らされた試合でした。

内田篤人選手が先日の引退会見で「世界と日本の差は開いている」と言っていたのがよく理解できる、ハイテンポ・ハイプレッシャーの中でも両チームとも大きなミスがほとんどなく正確にプレーが行われた最後まで緊張感のあるハイレベルで素晴らしい決勝戦だったと思います。