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【ワダサカ論】vol.10
Vol.10 様々な指導者①
私は、Jリーグ4チームでトップチームコーチ、通訳を務めました。
名古屋、仙台ではベルデニックさん、ガンバ大阪で西野朗さん、新潟では黒崎久志さん(元日本代表。鹿島や新潟などでプレー。現在は鹿島でトップチームコーチを務める)、柳下正明さん(磐田、札幌、新潟で監督を務め、現在は金沢で監督を務める)の下で仕事をしました。
どの監督も経験豊富で多くのことを学びましたが、今回はそれぞれ4年間という長い期間一緒に仕事をさせてもらった西野さんと柳下さんの話をしたいと思います。
西野さんは、「チームを勝たせる監督」という印象です。ロシアW杯でも同じでしたが、苦戦を強いられても最後には勝つということがよくありました。ガンバ大阪を率いていた時、2005年シーズンは、序盤になかなか勝ち点が増えず厳しい試合が続きました。シーズン中盤あたりからは面白いように勝ち点を積み上げて首位に立ち、終盤は3連敗して首位陥落しながらも最終戦で逆転優勝を果たしました。2008年のACLでも先制される試合が多かったですが、終わってみれば無敗優勝を達成しています。
苦しい状況でも西野さんが「勝てる」と言うと本当に勝てるような気がしましたし、実際ほとんど勝ったように記憶しています。おそらく選手も同様に感じていたのではないでしょうか。ロシアW杯でも日本代表チーム内にはそのような雰囲気があったのだろうと思います。
というのも、西野さんは話す内容、タイミングが素晴らしく、本当にスッと言葉が入ってくる方でした。今でもよく覚えていますが、天皇杯が始まる前に「天皇杯ほど簡単な大会はない」と西野さんは言いました。カップ戦は負けたら終わりですから、その言葉を不思議に思っていると「6回勝つだけで優勝だぞ」と続きました。単純な私は、一瞬でカップ戦に対する見方が変わりました。
柳下さんは、トレーニングを通じて自分のコンセプトをチームに植え付ける監督で、熱血監督という表現がピッタリな方です。一緒に仕事をすることになった2012シーズンは、シーズン途中から就任し、ほぼJ2降格だろうと言われた新潟を見事J1残留に導きました。翌年2013シーズンでは、もし前期・後期の2ステージ制だったら、新潟が後期ステージ優勝という成績を挙げました。
練習内容は実戦的で強度が高く、選手への要求も多かったです。ただ逆に言うとやるべきことがハッキリしていました。主力選手にも厳しく、練習中にやる気が見えない外国人選手を練習中に帰らせたこともありました。
厳しい方ですが、チーム・選手のために、あえて厳しいことを言っているのがわかりますし、理不尽な言動がないので選手も柳下さんについて行く、そんな監督だと思います。練習中に帰された外国人選手も、その後はチームのために素晴らしいプレーをしてくれました。
また、コーチングスタッフみんなでよく食事に連れていってもらいましたし、柳下さんは面倒見のいい親分といったところでしょうか。
冷静な西野さんと熱い柳下さん、対照的な二人に見えますが、私が一緒に働いた時のチーム状態がチーム作りのアプローチの仕方に大きく影響していることは間違いないと思います。
ガンバ大阪では、私は西野体制4年目のシーズンからの入団だったので、チームはかなり成熟し、理想を突き詰めていく状態でした。一方で、柳下さんとはチームが降格危機にある状態からのスタートで、理想と現実の葛藤の中、チームを作っていくプロセスでした。
当然ながら置かれたチーム状況によって、チーム作りのアプローチは大きく変わってきます。ですから、この監督はこうだ、と単純に言えないですし、このお二人に関して言えば勝負へのこだわり、チームマネジメントの上手さなど共通点は多くあります。
監督というのは、ブラジルでは「首になった監督と、これから首になる監督しかいない」と言われる過酷な職業です。
Jリーグが再開したら、選手のプレーだけでなく、監督のベンチワークや試合後のコメントにも注目してほしいと思いますし、練習見学をして、監督のゲームプランを予想して観戦すると、また違う楽しさも見えてくると思います。