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【ワダサカ論】vol.4

vol.4 ユーゴスラビア時代からの『スポーツ』強化策

 

スポーツにおいて、ゲーム感覚をもたらしたのが歴史的背景だとすると(もちろんそれがすべてではありませんが)、優れた選手を生み出せたのは国の政策として、スポーツ強化に取り組んできた成果と言えます。

国の支援の下、大学が中心となってスポーツの研究・指導者養成をしてきたことが貢献しているのは間違いないと思います。

ユーゴスラビア時代は、スポーツクラブの月謝は不要で、経済的に豊かではない家庭の子供でもスポーツを楽しむことが可能でした。また、学校でのスポーツテストの結果から、ひとりひとりをより適した種目へ勧誘することもしていたそうです。そして、スポーツ強化の理論的な前提となる『スポーツ科学』が早いうちから大学で研究されていました。

スポーツ科学は、もともと旧社会主義国家で発達した分野で、旧ソビエト連邦・東ドイツなどで非常に盛んでした。ドーピングなどのネガティブな側面もありましたが、個人の能力を高めるという点で大きく貢献したと言えます。

スポーツ科学の研究と同時に指導者養成も行われていました。コーチングスクールはもちろん、大学の体育学部でもサッカーのコースを卒業するとコーチングライセンスを取得できました。また、教員として在籍中に一旦休職してクラブチームで指導し、再び復職して指導法などをさらに研究するというシステムも整備されていました。大学で研究した理論を実践し、その結果・経験を基に更に理論的に研究するという理論と実践の融合が行われていたのです。

サッカーの分野では、プレーを細かく分解し、『基礎となる運動能力』と『サッカーの運動能力』を定義し、明確な測定方法を確立しました。その測定による結果から、モデル(基準)を作ることを実践していました。ユーゴスラビアからの独立後は、スポーツクラブの月謝は有料となり、残念ながらタレント発掘という面でマイナスの影響がありましたが、研究と実践のシステムは引き継がれました。

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育成年代では、実際に数多くの選手の測定が行われており、選手モデル、つまり現代的サッカーで必要な要素を持った選手のひな形がしっかり作られています。何度か代表チーム(A代表、U-18候補)の体力測定を見学させてもらったことがあります。同じ測定種目を行うことで、成長具合を客観的に確認できる体制が整備されていました。そのデータを見ると、イリチッチ(現アタランタ)とザホビッチ(ポルト、バレンシアなどで活躍。スロベニア代表として歴代1位のゴール数を誇る)のように、違う時代のスロベニアを代表する選手同士の比較も可能となります。あくまでも運動能力の比較ですから、それでどちらが良い選手かという話はできませんが、指導者にとっては非常に興味深いデータが揃っているのです。

スロベニアでは「タレントを見つけることができたら育成段階での仕事の半分は終わりだ」と言われています。それは、『サッカー選手として成功するために特に重要とされる運動能力がいくつかあり、その多くは先天的なものである割合が大きい』ということを、ユーゴスラビア時代から積み重ねてきた研究結果として分かっていたからです。

(続)